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2017年2月 7日 (火)

憂い蜘蛛

ある日のこと、洗濯機に洗剤を入れて回そうとしたら、ふと中の洗濯物に小さな蜘蛛がくっついているのを見つけた。


どこから入り込んだのやら、このまま洗濯機を回せば確実に溺れ死ぬだろう。


いっそ見なかったことにしてやろうか…という意地悪な考えが浮かぶ。昆虫は別に嫌いではないが、やたら足が多い蜘蛛はサイズにかかわらず苦手である。


途中まで本気で蓋を閉めかけたが、自分の中の何かが待ったをかけた。蜘蛛がいるとわかっていながら洗濯機を回すのは、未必の故意によるれっきとした犯罪行為である。


よくわからんが、こういうのを仏心というのだろうか。


それとも自分より遥かに小さい生命に同情したのだろうか。とはいえ素手で触る勇気はなく、洗濯物のハンカチに乗せてそれごと外に出した。


やった、助けられた。


と思ったのも束の間、そのハンカチにはすでに液体洗剤が浸み込んでいたらしく、それに触れた蜘蛛は目の前でもがき苦しんだ。


このとき初めて知ったが、洗濯用の液体洗剤は虫をすぐには殺さない。じわじわと時間をかけて息の根を止めるのである。蜘蛛は足を上げてしばらく苦しんだあと、ぱたりと倒れて動かなくなった。


私は助けてやるつもりだったのに。


素手で助けてやればこんなことにならなかったかもしれない。ただ蜘蛛が苦手だからという理由で、洗剤が付着したハンカチを使ったせいで死んでしまったのだ。


小さな骸を前に、ひどく悲しい思いに駆られた。自分が日ごろ使っているものが、あんなにもあっさりと虫を殺してしまえることに衝撃を受けた。人間なら肌についても洗い流せばいいが、ひとたび虫が浴びればもがき苦しみながら死んでいくのである。


そんなつもりはなかったとはいえ、命を奪ったのは私である。


小さな命に手を差し伸べるのは思うほど簡単ではない。善意のつもりでやった行ないも、実は相手の命を危険にさらす行為かもしれない。


誰だって苦手な相手を怖がったり、生身で触れるのを嫌がったりするものである。だが、そのたった1つの壁が自分と相手を隔て、知らぬ間に見殺しにしてしまう。やはり命と命の間、心と心の間に壁なんか作ってはいけない。


改めてそう感じた日であった。


助けられなくてごめんよ。



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ひとりごと

  • 趣味関係で浮かれ騒ぎながらも、じいちゃんの初盆の墓参りにはちゃんと行きました。近い身内が亡くなったのはじいちゃんが初めてで、本人の魂は今どこにあるのだろう?と真剣に考えてしまった。遺影と位牌は実家にある。遺骨と墓は霊園にある。本人の身体は焼けて煙になった。なら魂はいま何処に? お盆ってそもそもなんのためのイベントなの?冷静に考えると不思議だ。
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